事業承継・個人の相続を視野に、事前の対策として不動産鑑定評価や関連業務をご依頼いただくケースが増えています。
日本において、不動産鑑定制度の歴史は50年程度とまだ浅く、合格者の内、士協会登録している不動産鑑定士は5,000名程度にとどまっています。その内、大部分が3大都市圏及び札幌・仙台・広島・福岡等の地方中核都市に集中しており、広い岐阜県において実働している不動産鑑定士は平成29年10月現在、40~50名弱です。
このため特に地方都市では、固定資産税評価等の公的評価業務が主な仕事であり、一般の方にはその存在すら余り知られていないのが実情です。
弊社の場合、平成13年末の創業当時、専任鑑定士は地価公示等の公的評価業務を担当しておらず、不良債権処理等の民間需要を開拓。その後、地価公示・司法競売・固定資産評価員等にも就任し、公的機関からの依頼が増えたとはいえ、平成29年10月現在、県内では民間評価の割合が比較的高い数少ない事務所の1つです。
不良債権処理のピークは、平成15年頃には完了。景気回復に伴い、節税対策としての同族間売買における時価評価が増えてきましたが、近年では、平成25年の相続税法の改正が平成27年より施行されたことにより、基礎控除枠が減少し、課税対象となるケースが増えたことから「広大地」を中心とする相続税節税対策の仕事を多く受注してきました。
但し、平成29年の法改正により、平成30年以降、「広大地評価減」による節税メリットは減少していきます。
他方、近年では事業承継・個人の相続を視野に事前の対策として不動産鑑定評価或いは関連業務を受注するケースが増えています。
具体的には
- 三重県内某市傾斜地の医院及び自宅等。
山際に医院、父子の自宅等が散在しており、周辺の原野・農地等を含め広大な所有地がある。先代の医師が高齢であり、跡継ぎの医師より相続税の試算を依頼されたケース(H28.8)。
当該ケースでは、委任状の取得により所轄の税務課にて家屋台帳添付資料等を照会。税務課でも範囲の特定に苦慮していた。
宅地部分・原野部分・農地部分等に分け白図等と照合した机上の概況測量を土地家屋調査士に依頼。地目毎の範囲確定により概算評価額を査定。相続発生前であることから鑑定評価基準に則らない調査報告書として成果品を提出した。 - 病死により先代の事業を承継した50代の経営者が事業承継を前提に、各支店の時価を洗い直し、同族会社に事業承継するケース(H29.8 名古屋市内某企業、全国展開する各支社、営業所の一部を同族会社に譲渡)。
- 名古屋市内のマンションの相続を数年後に控え、担当の税理士から路線価評価額の画地認定、画地計算についてアドバイスを求められたケース(H29.9 愛知県内某企業 社長)
- 岐阜県内、某収益物件オーナーからの依頼。郊外に位置しており、築40年程度経過しているが、稼働率は比較的良い状態。現在母親が所有しているが、高齢であるため子息の一人が承継したい意向。賃貸不動産管理法人を立ち上げ、同法人に所有権の移転を計画。融資金額或いは兄弟間の紛争を避ける趣旨で不動産鑑定の依頼を受けたケース。近傍賃貸事例、貸家利回りの分析によりDCF法を適用。築年が古いことから将来の立退料・取壊費用の負担も考慮して評価額を査定した(H29.12)。
- 一棟で賃借している事業所を賃借人が買い取る、或いは、オーナー側より一棟で工場賃貸に供している土地建物の売却価格にかかる鑑定評価の依頼を受けました。前者は賃借人企業の会長、後者は土地建物オーナーが高齢化しており、依頼を受けたケースです。弊社では収益物件を借家人が買い取るケースの評価実績が何件かあります。過去は高収益物件で、収益価格の方が高くなりましたが、この2ケースでは収益価格よりも自用物件として取得する価格が高くなるため、借家権価格を除いた増分価値を両者に配分する限定価格の試算となりました。こうしたケースでは宅建業者による値付けが困難なため理論的な買取或いは売却価格交渉に役立ててもらっています(H30.3、H30.9)。
- 底地をロードサイド店舗に賃貸している土地オーナー様から鑑定評価を受注。前者同様、土地オーナーが高齢化しており、相続後何人かいる兄弟間でもめないために所有権の帰属を法人に移すという依頼目的でした。弊社は県内の地代事例に精通しており、事業用定期借地権付底地に係る割合方式と賃貸借契約に沿った有期還元方式の適用により実証的かつ理論的な底地価格を算出。事業承継に役立てていただいております(H30.8)。
- 平成30年は分譲マンション(専有戸1戸)の依頼が重なっていますが、その中の一つに岐阜市内、築年の古いファミリータイプの依頼がありました。もともと所有していた両親が戸建てに転居されるとのことで、息子さんが負担付き贈与を受けられるケース。金融機関の融資額算定上の必要性もあって正式な鑑定評価の依頼がありました。ここ2~3年岐阜市の新築分譲マンションは高騰しており、現在分譲中のハイクラスの物件は専有坪あたり、170~180万円もします。このため中古物件には割安感があり、今回の評価でも比準価格が高めに算出されました。本件では新築想定から減価相当を控除する積算方式、収益方式も併用。所有者が当時の価格表等全て保管してみえたおかげで、積算方式の精度が上がり、積算と比準方式を中心に査定した結果、残債を少し上回る程度の査定ができました(H30.10)。
- 岐阜県某市 借地権付建物(建物は賃貸中)の相続評価の依頼を受けております。築36年鉄筋コンクリート造 各フロアー5区画の店舗付共同住宅ですが、稼働率が40%強と低く、オーナーは10年後の取り壊しを計画していることから鑑定評価上は有期還元方式を適用。土地も親戚から借りており割安なことから積算法の借地権価格は借得方式を適用。結果的に税理士の試算の1/3で評価することができたことから依頼者に喜んでいただいております(R2.4)
- 愛知県某市の工場地を評価。経営者が高齢化しており、親族に跡取りのない老舗企業の取引先からの依頼。築年の古い工場と土地を購入の後、リースバックして事業承継に備えるとうもの。設備更新した部分について残存価値を把握することができ、購入した企業にも減価償却上のメリットが発生したことから大変喜んでいただいております(R3.6)
- 岐阜県某町 量販店底地オーナー様から依頼を受けました。現在の地権者である親御さんが高齢であることから底地の所有権を親族間で移転したい意向。そもそも地方のロードサイドであることから銀行・税理士に聞いても地価水準自体が不透明で、疑心暗鬼になっておられました。取引時点を遡って、当町より類似の事例を収集した他、隣接市町村からも取引時点の新しいロードサイドの事例を収集。適切な時価を把握した上で、定期借地権の残存期間に応じた純収益(年間地代収入-公租公課)の年金現価 + 契約満了時の更地復帰価格の複利現価で収益価格を試算。周辺ロードサイドから豊富な地代データ、名古屋圏の底地に関する投資家アンケート等も提示することにより大変満足していただけました(R3.9)
令和3年9月23日